DNA浪漫紀行 第2話
幸運を招くオスの三毛猫
オスの三毛猫は小判?
犬はおしっこの仕方で性別がわかることがありますが、猫はパッと見で性別を判別することは難しいです。
しかし、猫のなかでも三毛猫はメスしかいないということを幼いころ聞いたことがあります。
それ以来、「三毛猫=メス」というように判別しています。
ところが詳しく調べてみるとオスの三毛猫も存在するということが分かりました。
今回、なぜ三毛猫はほとんどメスになるのか、その理由を簡単にご紹介したいと思います。
オスの三毛猫「みーすけ」(C) 2010 「ねこタクシー」製作委員会
三毛猫は、白、茶、黒の3色の毛が生えている猫の総称で、日本猫によくみられます。
古くから縁起が良いとされ、招き猫のモデルとされてきました。
一方、オスの三毛猫は大変珍しかったため、大昔は航海の際の守り神として船に乗せられ大変重宝されていたそうです。
なぜオスの三毛猫はほとんどみられないのでしょうか。
実際、オスの三毛猫はごく稀で、生まれる確率は3万分の1とも言われています。
四つ葉のクローバーが見つかる確率が1万分の1と言われているので、オスの三毛猫を見つけるのは四つ葉のクローバーを探すことの3倍難しいことになります。
では、なぜオスの三毛猫が珍しいのでしょうか。
それは色を決める遺伝子とその遺伝子が位置する染色体により決定されているからです。
染色体は父親と母親それぞれから受け継がれ、猫も人間と同様に常染色体と性染色体を持っています。常染色体は雌雄関係なくもつ染色体です。
性染色体は性別を決定する染色体です。
性染色体にはX染色体とY染色体の2種類があり、メスの場合は「XX」、オスの場合は「XY」の組み合わせになっています。
毛色を茶色や黒色にする遺伝子はX染色体上に存在し、1つのX染色体には茶色か黒色どちらかの遺伝子しかのることができません。
そのため、メスの場合は「XX」の2本のXにのる遺伝子の組み合わせが、「茶茶」、「黒黒」、「茶黒」となります。
そして「茶黒」となったときのみ三毛猫のメスが誕生します。
一方、オスの場合は「XY」のため、Xを1つしか持たず、そこにのる遺伝子は茶、黒のどちらかのため、基本的に三毛猫とはなりません。
では、オスの三毛猫が存在するのはなぜでしょうか?
実は染色体異常が生じることで「XXY」という染色体を持った子が生まれます。
この子の外見は正常で、生活するうえでも全く問題はありません。
この子は「Y」を持っていることでオスとなります。
そして2つの「X」にそれぞれ茶色と黒色の遺伝子がのることで三毛猫となります。
その結果、オスの三毛猫が誕生します。
しかし、この子は生殖機能が弱いため、ほとんど子孫を残せないそうです。
つまり、オスの三毛猫は一世代かぎり偶然生まれてくる、とても珍しい猫なのです。
これから三毛猫をみかけたとき、改めて性別を確認すると、もしかするとオスかもしれません。
もしオスの三毛猫に出会えたらとても嬉しくなるでしょう。
希少なうえに子孫を残せない生物には生きていた証しとしてDNAを残してあげることができればいいなと思います。
Science 134, 554-555 (1961)
エピジェネティクス入門 岩波書店 佐々木裕之