DNA浪漫紀行 第3話

ここ掘れワンワンは友情の証し

ヒトがオオカミをイヌに変えた!?

あらゆる動物の中でイヌはヒトに最も親しみ深く、忠誠心を持っています。
時には上手に甘え、嫉妬や助けを求めます。
ヒトはイヌの性質を理解し、狩猟や生活に欠かせない作業を手伝わせ、家族の一員として共生してきました。
既に縄文時代の我々の祖先はイヌとの交友を持ち暮らしていたようです。
では一体いつからイヌとの共生が始まり、どの様なきかっけで始まったのでしょうか?
この疑問を紐解く発見が、DNA配列から明らかとなり、共生は意外なことから始まったことが判明しました。

オオカミとの交流はDNAの変異によるものか!

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イヌの祖先はオオカミですが、オオカミからイヌに進化を遂げたことと、ヒトとイヌの共生が始まったことが同じ時代のようです。
現在のところ、1万5000年以上前にユーラシア大陸の中央アジア地帯に生息していたタイリクオオカミがイヌに進化した説と、約2〜3万年前にヨーロッパに生息していたオオカミがイヌに進化した説があります。
それらの地域で見つかった骨格標本や、イヌの純血種や野犬あるいはオオカミのミトコンドリアDNAの配列を解読して比較し、結論付けています。
どちらの説が正しいかは更なる研究が必要だそうですが、興味深い点はこれら両者の共通点として、ヒトがオオカミを家畜化したことで、長い年月を経てDNAが置きかわりイヌとなったことが挙げられます。

イヌとオオカミの決定的な性質の違いは、イヌとヒトの間には助け合うコミュニケーションが構築されているのに対し、オオカミとヒトの間には構築がないことです。
これらの地域に生息していたオオカミが、狩猟採取後の残飯をあさっていたとされ、次第に多くの餌をあたえてくれるヒトに慣れ親しみ、やがて家畜化されたそうです。
家畜化されたオオカミはイヌとなり、ヨーロッパの探検家たちと共にアメリカ大陸に渡った可能性や、中央アジアから日本を含め大陸を渡っていった可能性があるそうです。

では、オオカミはどの様な変化を遂げてイヌに変わったのでしょうか?
この疑問を解明する手がかりが、つい先日、DNA配列の解読により得られました。
実験室で飼育されている400匹以上ものビーグル犬を用いた行動実験を行い、ヒトに対して親しみや助けを求める行為をもつイヌと持たないイヌを分類し、それらのDNA配列の違いを見出しました。
興味深いことに、違う配列を示す遺伝子が5種類存在し、それらが神経伝達に関与する機能をもつというのです。

一般的に遺伝子機能の研究はイヌよりもヒトで先行しています。
発見されたうちの一つ、ヒトSEZ6L遺伝子は自閉症に関与することが知られており、社会生活やコミュニケーションの障害、ある種のうつ病とリンクすることが報告されています。
その他、ARVCF遺伝子、COMT遺伝子は、統合失調症や多動症とリンクがあり、神経疾患を説明する鍵となる遺伝子と期待されています。
現在、オオカミのDNA配列の解読を進めているようですが、ヒトに慣れた最初のオオカミと、ヒトに親しみをもつイヌのこれら遺伝子群のDNA配列が同じであったかもしれないと推測できます。

つまり、オオカミからイヌへの変貌は、ヒトによってもたらされた生活環境の変化で生じたと同時に、DNAの置き換えによって必然的に親しみをもつ体に進化を遂げたと考えられます。
残念ながら、まだこれら遺伝子群の働き方は明確ではなく、DNAの変異と障害の因果関係は判明していませんが、近い将来、明らかとなるでしょう。
我が愛犬のこれら遺伝子群のDNA配列を覗いたとき、互いの絆が確信となるでしょう。
これまでの友情が、「なるほど!」と思えるかもしれませんね。

参考文献
Shannon et al., Proc Natl Acad Sci USA 112, 13639 (2015)
Persson et al., Scientific Reports 6, 33439 (2016)
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