DNA浪漫紀行 第4話

その声、聞こえているにゃー

猫に九生あり。その秘密とは?

映画「メン・イン・キャット」をご存知でしょうか。
ケヴィン・スペイシー主演で2016年11月に公開されたコメディー映画です。
仕事一筋のゴーマン社長が買ったばかりのネコと共にビルの屋上から転落し、意識が戻ったときには飼っているネコの中に意識が入ってしまったのです。
誰にも自分だと気づかれずにペットになってしまった主人公が、人間に戻るため、会社を守るため奮闘する、ハラハラなストーリーです。

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原題は「Nine Lives」といって英語のことわざの a cat has nine lives (cat with nine lives)から付けられています。
この和訳は“猫に九生有り”という日本語のことわざにも変換されたようで、ネコにはたくさんの命があるかのように何度も生きかえるネコのしぶとさを表しています。
つまり、主人公のしぶとさ、ねばり強さがメッセージとなっているのではないでしょうか。

さて、ネコにはしぶとさや粘り強さのほか、特別秀でている特徴として、俊敏性など、ずば抜けた身体能力があります。
なかでも高いジャンプ力とバランス感覚そして聴覚が発達しています。
では、バランス感覚を司る三半規管における平衡感覚の発達や、高度に発達した聴覚とDNAの関係はどの程度判明しているのでしょうか。

実は、ネコの全DNA配列(ゲノム)が明らかになったのは、ごく最近のことです。
イヌの全DNA配列が2005年に解読できたのに対し、ネコのゲノムが解読できたのは2014年になってからです。
その解読によりヒトとイヌよりも、ヒトとネコのゲノムの方がかなり近いことがわかりました。
 
ネコ科の動物の中でネコは最も聴力が鋭く、獲物から出る超音波と獲物の動きの両方を感知することができます。
最近の研究により、この聴力の鋭さにはMYO7A遺伝子やCOL9A3遺伝子などの6種類の遺伝子が関わっていると同定されました。
これらの遺伝子の働きによって、肉食動物の祖先やネコ科の動物は広い範囲の周波数を鋭敏にとらえ、他の動物に見つかる前に、獲物を効果的に獲得しているそうです。

なかでもMYO7A遺伝子は聴覚だけでなく視覚にも作用し、MYO7Aが変異したマウスの場合、聴覚と視覚の両方が失われることが明らかになりました。
この遺伝子がネコとヒトでどの程度の違いがあるか、とても興味深いですが、この遺伝子の更なる機能の解明は猫に秀でた能力を判明する鍵となることは間違いなさそうです。

今後、我がネコと自分のDNAを比較できると、我がネコがいかに身体能力に優れていたか判明するかもしれませんね。
ちょっとした小言は、実は全て聞こえていたのですね。
 

参考文献
Montague et al., Proc Natl Acad Sci USA 111,17230 (2014)
Miller et al., PLOS ONE 7, e51284 (2012)
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