DNA浪漫紀行 第7話

見つめ合うと素直になれる!?

オキシトシンの秘密

皆さんは毎日、愛犬や愛猫と見つめ合いますか?長く見つめ合うことで、互いに気持ちが通じ合う瞬間を感じたことはありませんか?このような感覚、実は科学的な根拠があることが、最近の研究でわかってきました。今回は種を超えてDNAにコードされているホルモンの働きについてご紹介します。

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オキシトシンというホルモンをご存じですか?
オキシトシンは脳下垂体後葉から分泌されるペプチドホルモンで、1955年には化学合成が成し遂げられた成果によってノーベル化学賞が授与されている古くから知られるホルモンです。
一般的な作用には、子宮収縮による陣痛促進や、乳汁分泌を促すことが知られています。
一方、近年の研究成果から、脳の中枢組織にも作用し、コミュニケーションに重要であることが報告されています。
ではいったいどのように、コミュニケーションに働きかけるのでしょうか?

実はオキシトシンは視線を合わせたり肌が触れ合うことで分泌され、母性行動や相手への惹きつけが促されます。
これは親子間だけではなく、パートナーであったり、信頼関係を築いた親友間でも生じます。
つまり、家族であったり親しい人と過ごす時間において、互いにオキシトシンを分泌し合い、ごく自然に絆を結んでいるのです。
このオキシトシンですが、実はマウスを始めイヌやネコにもヒトと全く同じ構造をしたオキシトシンが母子間で分泌され機能しています。
オキシトシンの作用点もほぼ同じであることが判明しています。
これらのことから、オキシトシンは種間を越えて絆を芽生えさせる可能性が推測されます。
麻布大学獣医学部の菊水健史先生はこの点に着目した先駆的研究者で、近年その成果を報告しました。※1)

ある一定時間のあいだイヌと見つめ合った飼い主と、視線を合わせなかった飼い主のそれぞれの尿を採取し、オキシトシン濃度を測定しました。
すると見つめ合ったイヌと飼い主は、視線を合わせなかったペアに比べ、オキシトシン濃度が増加していることがわかりました。
さらに、視線を合わせないイヌにオキシトシンを投与すると、見つめ合ったときのように飼い主へ興味を示すそうです。
つまり、イヌとヒトとの間の視線においても両者のオキシトシン分泌が促され、それにより懐いたり寛容性が増すことを見出しました。
イヌの気持ちをヒトが理解するように、イヌもヒトの気持ちを汲んでいるのですね。

この相手の気持ちを理解したり寛容性を示すこと、これがコミュニケーションの第一歩であるといえます。
現在、コミュニケーションの障害である自閉症の罹患者は非常に多いことが知られています。
オキシトシンで治療する臨床研究も始まっています。
またドッグセラピーはオキシトシンの分泌を促す上で効果的と考えられています。
ネコではどの程度イヌと同様の効果が得られるかわかりませんが、少なからず効果はあると思います。一度じっくり試してみてはいかがでしょうか。
オキシトシンの効果は実感できますか?

参考文献
1) Nagasawa et al., Science 348, 2015
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