DNA浪漫紀行 第13話

イヌの涙は飼い主への愛情?

イヌの涙の理由

皆さんは、2000年代に男性がウルウルした瞳のチワワに見つめられるCMが話題になったことを覚えていますか?
潤んだ瞳で見つめられると、つい何かしてあげたくなってしまいますよね。
瞳を潤ませているのは涙ですが、最近イヌも感情の変化で涙することが明らかになりました。
今回は、そんなイヌの涙に関する研究をご紹介したいと思います。

DNA浪漫紀行vol.7では、イヌと飼い主が見つめ合うと飼い主のオキシトシンが上昇すること、イヌにオキシトシンを投与すると飼い主を見つめる行動が増加することをご紹介しました。
野生動物の世界では、見つめ合う行為は威嚇行動と考えられていますが、ヒトとイヌの間ではむしろ絆を形成するのにとても重要なシグナルとして使われています。
麻布大学獣医学部、永澤美保准教授の研究チームでは「なぜ見つめ合うことで絆が形成されるのか」について考えていた際、育児中のメスイヌの目が潤んで見えて普段以上にかわいいという話題になり、育児中に最も分泌されると考えられるオキシトシンが涙腺に作用しているのではないかと考えたそうです。
ヒトの場合、感情が大きく揺さぶられるなど、情動の変化にともなって涙の量が増えることは知られていますが、動物における情動の変化と涙の量の関係を調べた研究はこれまでありませんでした。

永澤准教授の研究チームは、自治医科大学と慶応義塾大学との共同研究により、イヌは情動の変化にともなって涙の分泌量が増えること、涙の分泌にはオキシトシンが関与していることを明らかにしました。

イヌと飼い主が長時間(5~7時間)離れてから再会後に涙の量を測定すると、普段飼い主と一緒にいる時と比べて涙の量が増加しました。
また、馴染みがある飼い主ではない人との再会では涙の量は増えませんでした。
このことから、イヌの涙液の増加は、絆を形成した飼い主との分離後の再会のように情動が大きく変化する場面において認められることがわかったそうです。

さらに、イヌへオキシトシンを点眼すると涙の量が増加したことから、涙の分泌にはオキシトシンが作用している可能性が示されました。

また、イヌの涙のヒトへの社会的な作用を調べるために、イヌに人工涙液を点眼して顔写真を撮影し、人工涙液点眼前と点眼後の2つのイヌの写真を見た人がどのような印象を持つか比較しました。
その結果、点眼後の目が潤んだ写真の方が触りたい、世話をしたいといったポジティブな印象を与えることが明らかになりました。

視線を用いたヒトとのコミュニケーション能力を高度に進化させてきたイヌにとって、涙はヒトからの保護行動や養育行動を引き起こすような機能があり、オキシトシンが関与していることが示唆されました。
永澤准教授は、「イヌが、飼い主に目を潤ませるという感情の示し方をすることは、ヒトに世話をしたいという気持ちを起こさせる戦略のひとつと言えるかもしれない。イヌが家畜化される過程でどのようにヒトと親密な関係を築いてきたかを考えるヒントになる。」と話しています。

イヌがヒトと共生するにあたって、目を潤ませることでお世話したい欲をくすぐっているかもしれないとは驚きました。
そして、絆の形成にはやはりオキシトシンが重要な役割を果たしていることを再認識しました。
マウスにおいて、涙腺にオキシトシン受容体があることもわかっているそうです。
イヌも家畜化の過程で、涙腺にオキシトシンが作用するようDNAに受け継がれてきたのかもしれません。
真っ直ぐキラキラな眼差しで見つめてくれる愛犬を、目いっぱいかわいがりたいですね。

参考文献
Kaori Murata et al. Increase of tear volume in dogs after reunion with owners is mediated by oxytocin. Current Biology. 2022, Volume 32, Issue 16
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